2020-2021年度会長報告
第3695例会 令和3年4月28日 会長報告 長澤 秀行 会長
2021 年 5 月 14 日
今週(4月24日から30日)は世界予防接種週間です。予防接種と聞くと、今は新型コロナウイルスのワクチン接種が頭に浮かびますが、10年前の2011年に、世界中の母子の健康や子供たちの健康のために、ワクチン接種の重要性を伝えるとともに、ワクチン接種を集中して実施する大切な期間として制定されました。
科学的に証明された最初のワクチンは、Jennerによる天然痘ワクチンです。今から200年以上前の1796年に、ジェンナーは8歳の牧童James Phippsに牛痘を接種した後、ヒトの天然痘を感染させ、予防効果を証明しました。天然痘の予防方法は牛痘由来のものだったので、ラテン語で牛を意味するVaccaから、vaccinationワクチンと呼ばれるようになりました。天然痘が世界から根絶されたのは、約200年後の1980年です。
免疫学、正確には感染免疫学の発展は著しく、天然痘に始まり、ポリオ、はしか、結核(BCG)など、多くの感染症がワクチンで予防可能になりました。ロータリーが深く関わっている世界ポリオ根絶推進活動(GPEI:Global PolioEradication Initiative)によって構築されたポリオ根絶のインフラストラクチャーが、他の疾病予防に活かされています。ポリオ根絶活動には、ワクチンは欠かせません。しかし、開発途上国でワクチン接種を普及する活動には多くの困難があります。ワクチン接種従事者は、ポリオ根絶以外の活動、すなわち、ビタミン剤の配布、寄生虫の駆虫薬の配布、はしかなどの他の感染症の予防活動、マラリアなどの蚊が媒介する感染症を防止するための蚊帳の配布なども同時に実施することが必要です。綿密な計画策定、感染者の疫学調査、住民の移動状況の追跡、社会動員プログラム、システム化された研修、予防接種チームの派遣などを含めたプログラムが重要です。これが、1985年から開始された、「ポリオ・プラス」プログラムです。ポリオ根絶に加えて、他の疾病や栄養失調などから、子供たちを守る活動を続けて、今日に至っています。約30年前は、一日で約8000人の子供たちが、ワクチンで予防できる感染症で命をおとしていましたが、予防接種をより充実させることで、世界中で、年間、推定300万人の人命が救われているというWHOの報告があります。
今、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が望まれる一方で、ワクチンの有効性・安全性について疑問を持つ人がいます。副反応についても心配ですが、予防接種は最も費用対効果が高く、成功率の高い感染予防方法です。世界予防接種週間にあたり、ワクチンのリスクとベネフィットを正しく伝えるリスク・コミュニケーションが重要です。